雨の日
どうやら北海道に台風が来ているらしい。
そのせいか朝から雨がひっきりなしに振り続いていた。
こういう日は朝早くに起きて、登校中の子供たちが作り出す傘の花を、自室の快適な空間から見下ろすのが最高に愉悦である。そのため、私は朝六時には自分の寝床から這い出して、朝食とシャワーを済ませて、本に目を落としながら子供たちが家の前を通るのを待ち続けた。しかし不思議なことにどれだけ待っても、子供どころか人っ子ひとり私の家の前を通らない。
どういうことかしらと頭に疑問符を浮かべていると、壁に掛けられたカレンダーが目に留まった。
私はそれを見て全てを理解した。
今日は秋分の日だ。
私は肩の力がするりと抜け落ちていくのを感じた。
天気が悪い日は一日中家に引きこもり、映画を見たり、ギターを弾いたり、本を読んだりしながら過ごすのが好ましい。文化的で健全な人間的な生活とは、このようなものをきっと指すのだと思う。少なくとも、どこの誰とも分らぬ人の靴が水浸しになっている場面を想像して、にまにましているのは健全とは言い難いだろう。
その点、私はすこぶる健全である。
窓ガラスに勢いよく雨粒が叩きつけられる音を聞き流し、趣味のギターを練習しながら、誰かの水浸しの靴の中身を想像してニマニマする。
健全すぎて泣きたくなってくるね。